トイプードルの脂漏性皮膚炎
2023.3.11【症例】
トイプードル、2歳齢、去勢オス
【症状・経過】
当院を受診する半年前から全身に赤みや脱毛が目立つようになり、病院に通院するようになった。アポキルの処方をされたが、改善が見られなかった。
病院では保湿系のシャンプーが出され、1日おきに自宅で洗浄を行っているが、シャンプー後から大量のフケが出てきてしまう。
写真では、胸やお腹には強い赤みがあり、痒そうに見えます。また四肢は大量のフケが付着し、皮脂のコントロールができていないことがわかります。
【診断】
脂漏性皮膚炎
【治療】
今回の症例は犬種や年齢、フケを主体とする皮膚炎などから脂漏性皮膚炎と診断し、治療を開始しました。
今回は皮膚の検査で角化細胞のターンオーバーが早くなっていることがわかりましたが、ブドウ球菌やマラセチアといった皮膚の常在菌が過剰に増殖していることはありませんでした。
そのため、抗菌治療ではなくスキンケアによって皮脂を落とすことを重点的に行っていただきました。また、痒み止めもアポキルからステロイドに切り替えて、内服を行っていただきました。アポキルは「痒みを止める」ことについては強い効果を発揮しますが、今回のようにすでに皮膚炎が重度に起きているときはステロイドの方が効率的に治療を行うことができます。さらにステロイドには皮脂の分泌を抑制する効果もあるため、脂漏性皮膚炎の初期治療としてはマッチしています。
治療開始後、3ヶ月で以下のような変化が見られました。
治療から3ヶ月後には大部分の毛が生えそろい、フケもほとんど見られなくなりました。さらにとてもいい点が、現時点ではステロイドは頓服として飲んでいるだけで月に数回の内服にとどめられているということです。
そのため、今は定期的なシャンプーと院内での薬浴、皮膚の栄養要求を満たすためにサプリメントを主に使用していただいています。
ステロイドは飼い主様の話を聞くとまず第一に聞こえるのは、副作用に対する懸念です。確かにステロイドは使用しないならその方がいいですし副作用を気にする必要もありません。ですが、動物医療でステロイド以外の投薬に頼るということはその分、治療費がかなり高額になることを意味します。皮膚病の多くは、この治療費が生涯にわたってかかってくるため、その辺りの費用負担に全く問題がない方がいれば、そうでない方もいらっしゃいます。
皮膚病の治療は「改善させる期間」と「状態を維持する期間」に分かれます。状態を維持する期間を長くできなければ、結局元の状態に戻ってしまいますから治療効果や副作用、費用のバランスも考えて継続できる治療をご提案しています。
当院では脂漏性皮膚炎だけでなく、年間数百症例にのぼる様々な皮膚疾患を診察、診断しています。そのため、通常の治療で良くならない皮膚病でも違った角度から治療プランを立て直すこともできますので、慢性的なわんちゃん、猫ちゃんの皮膚病でお困りの飼い主様は、一度ご相談いただければと思います。